研究内容
有機半導体高分子の開発
白川先生が導電性高分子の発見と応用という業績でノーベル賞を受賞してから20年以上が経過しました。その間、有機半導体高分子の研究分野は大きく発展しました。合成手法に着目すると、単一モノマーを重合して高分子を得る方法から、2種類以上のモノマーをクロスカップリング重合する方法へシフトしていきました。結果として分子構造が複雑になっていきましたが、分子内の電荷移動相互作用を利用することで狭いバンドギャップを有する高分子や高いキャリア移動度を有する高分子が生み出されました。
無機半導体と同様にキャリアには2種類あります。正孔を流すものをp型半導体高分子と呼び、電子を流すものをn型半導体高分子と呼びます。我々の研究室では、優れたn型半導体高分子の開発を目指しています。例えば、ベンゾチアジアゾール(BT)という構造は電子アクセプターであるため、電子を流す素材として有望です。より強いアクセプターであるベンゾビスチアジアゾール(BBT)に変えるとさらに効率よく電子を受け取りますが、BBTは有機溶媒への溶解性が低いため隣接する芳香環にアルキル鎖を導入する必要があります。このアルキル鎖が立体障害となり、高分子の主鎖骨格が大きく捩れてしまい、結晶性が低下するという問題がありました。そこで、BBTの一つの硫黄原子を窒素原子に置換したチアジアゾロベンゾトリアゾール(TBZ)を開発しました。TBZは窒素原子上にアルキル鎖を導入できるため、高い溶解性と主鎖骨格の平面性を両立することができます。TBZを用いたn型半導体高分子を開発し、有機トランジスタにおける高い電子移動度を実現しています。
有機太陽電池はp型半導体高分子と低分子のn型半導体の組合せが主流でしたが、最近ではp型もn型も高分子から成る全有機高分子型太陽電池が注目されています。我々の研究室で開発したn型半導体高分子を用いて全有機高分子型太陽電池を作製し、性能を評価しています。n型半導体高分子の電子移動度が向上すると太陽電池の光電変換効率も向上することを見出しています。全有機高分子型太陽電池は高分子鎖間の絡み合いがあるため、高い機械強度やフレキシブルな太陽電池への応用が期待されています。
BBTやTBZのように芳香環が縮環した構造は狭いバンドギャップを有するため、近赤外領域に発光を示します。BBTやTBZから成る高分子をナノ粒子化することでバイオイメージングへの応用を目指しています。
[2+2]付加環化反応を利用したドナーアクセプター分子の合成
電子密度が高いアルキンと電子不足なアルケンは[2+2]付加環化、続く開環反応を起こし、捩れたドナーアクセプター骨格を生成します。アルキンとアルケンの置換基を適切に選択すると温和な条件下でほぼ定量的にドナーアクセプター分子を与えるため、新しいクリックケミストリーの反応と位置付けることができます。ドナーアクセプター分子は大きな非線形光学効果や優れた酸化還元特性、イオン認識能を有するため、多くの応用研究が行われています。我々の研究室では、p型半導体高分子の側鎖に電子不足なアルケン分子を付加させることでn型半導体のエネルギー準位を作り出すことに成功しました。この方法を使うと有機半導体高分子のエネルギー準位を自在に調節できるため、有機太陽電池の性能向上を実現しています。
リグニン由来バイオ高分子の開発
近年、石油由来のプラスチックが海洋環境を汚染していることが大きな問題となっています。この問題を解決するために、木質バイオマスであるリグニンから成型加工可能なバイオ高分子を作る研究を行っています。リグニンは木材中に20~30重量%含まれていますが、主な用途は燃焼させてエネルギーにすることです。
我々の研究室では、リグニンの分解過程で得られる2-ピロン-4,6-ジカルボン酸(PDC)という化合物を用いて様々なバイオ高分子を合成しています。例えば、PDCを二官能性モノマーとして重縮合に用いると、ポリエステルを合成することができます。PDCのポリエステルは擬芳香環であるピロン環を多く含むため、優れた熱的・機械的物性を示しました。また、PDCのポリエステルは生分解性を示したため、環境負荷が低い材料になると期待されています。